フードデリバリーに参入し、Uber EATSや出前館で一定数の売上を獲得することができるようになったら次のステップとして、手数料の発生しない自社販路での売上獲得を目指す企業が増えているようです。自社販路を強化する上でUber EATSなどのプラットフォームに依存せず顧客獲得を強化したいというご相談を最近よく受けます。
フードデリバリーの業務フローである「①集客する ②製造する ③配達する」の3つの中で「①集客する」のノウハウがないことで、デリバリーのプラットフォーム上では一定数売ることができても、自社販路では全く売上を伸ばすことができないというケースがよく見られるようになりました。
では、自社販路で売上を伸ばしていくためには何が必要なのでしょうか?
今回のコラムでは自社販路売上を伸ばすためのプロモーションを深堀して見ていこうと思います。
初期販促コストは初期投資と位置付けよう!
フードデリバリー事業への参入は、店舗ビジネスと比較すると初期投資が少ないという特徴があります。既存で飲食店事業をやっていて追加としてデリバリー事業を立ち上げる場合はさらに少ない初期投資で参入できます。
このような背景から、最近では大手チェーン店のゴーストレストラン化の事例も増えるようになりました。
確かに、専門厨房の立ち上げコストは一般的な飲食店に比べると非常に安いです。そもそも外観と内装にこだわる必要は全くありませんし、立地も配達効率さえよければ二等立地以下でも十分です。
もし、飲食店の居抜きがあればそのまま入ることもできるため、初期投資約200万円(物件取得費除く)で立ち上げるケースも多いです。
しかし、初期投資が少なかったとしても実際に売れなければ意味がありません。飲食店であれば、店前交通客からの衝動来店があります。グルメサイトに載せると「ニューオープン」枠で一定数の露出を得ることができます。
一方、フードデリバリーに関してはどうでしょうか?大手チェーン店であれば、元々ブランドの認知があるため、ブランド名検索でお客様を集客することができます。反面、認知のない中小企業/個人経営のお店、もしくは新ブランドでフードデリバリーを立ち上げた場合、当然ながら誰もあなたのお店のことを知りません。この状況から事業がスタートする、と認識することがまずは必要です。
このように認知を増やさなければそもそも売上を作ることができない背景から、まずは立ち上げ初年度での販促費をしっかりと初期投資として予算計上し、事業を進めていかなければ上手くいかないケースが多々あります。では、どの程度の販促費を準備し、どのような手法に投下すれば良いのでしょうか?
低価格業態・衝動注文業態ではチラシがまだまだ強い!
Uber EATSや出前館の販路をメインで活用していくと、まるでそれらプラットフォーム上が全てのように感じます。しかし、日本には元々出前や仕出しの文化もあり、このようなプラットフォーム経由ではなく直接お店へ問い合わせを行い注文する導線もまだまだ強い状況です。しかも、市場全体で見るとまだまだオンライン注文よりも電話注文の方が多いというアナログな世界です。
このアナログな世界を考えると、結果的に強いのはポスティングチラシです。もちろん業態によっての相性がありますが、低単価業態や衝動注文業態(丼・ピザ・釜飯・など)での費用対効果は高いです。
チラシのポスティングの効果は「反響率(ポスティングしたチラシ数に対して電話などの反応数)」で評価したりしますが、直近の反響率で見れば「1%〜2%」くらいで推移しています。ちなみに、コロナショックの3月頃は3%〜5%くらいの反響があったので、本当に異常な事態だったのだなと感じさせられます。
仮に売上目標として200万円を目指し、注文単価を3,500円と想定した場合、
売上目標2,000,000円 ÷ 注文単価3,500円 = 注文数571件
このように「571件」の注文を獲得すれば売上目標を達成することができます。
ポスティングの反響率が「1%」だと仮定すると、必要なポスティングチラシ枚数は、
注文数571件 ÷ 反響率1% = 57,100枚
このように「57,100枚」のポスティングを実行すれば目標達成です。
そんな予想通りいくのか?と思われるかもしれませんが、この反響率を達成できる勝ちパターンさえ作れれば、ほぼ想定通りに目標達成できます。
そのため、寿司宅配やピザ宅配では月間のポスティング枚数が多く、1店舗あたり5万枚〜6万枚を継続して配布することも一般的です。これは販促としての勝ちパターンを既に作り上げているからです。
フードデリバリーは積み上げ式!1件の顧客獲得コストを把握しよう!
先程の例だと、「57,100枚」のポスティングをすれば、初月から目標達成することが見えました。ではその場合に必要な販促費はどのくらい必要でしょうか?
デザイン・印刷・ポスティング代行費用を考慮すると、「約60万円」の費用が発生します。
売上200万円に対して60万円の販促費です。言い換えると、販促費率は30%!この数字だけ見ると大失敗のように感じるかもしれません。
ただ、一番大切なのはフードデリバリーを直販で強化していく上で、このビジネスモデルはリピート事業モデルであるという事をしっかりと理解する必要があります。
このケースの場合、60万円の費用をかけて獲得できる顧客数は571件です。これを1件あたりに換算すると
販促費600,000円 ÷ 獲得数571件 = 1,050円
このように、1件の顧客獲得にかけるコスト=CPO(Cost Per Order)は1,000円ちょっとです。これが自社の事業において費用対効果合うのかどうかを見ていく必要があります。
つまり1,000円のコストで獲得した顧客は自社にどれほどの利益を生み出してくれるのか、という観点です。仮に、1件の顧客が今後何度もリピート利用してくれ、生涯に100,000円の「利益」をもたらしてくれるならば、1,000円で1件の顧客獲得は費用対効果は抜群に良いですよね?
むしろもっとコストを掛けて顧客獲得数を増やした方が長期的な売上・利益が最大化すると言えます。
1件の顧客生涯利益を最大に!LTVを意識しよう!
1件の顧客生涯利益を最大化する。これをLTV(Life Time Value)最大化と言います。計算式としては下記です。
LTV = 1回あたり平均単価 × 年間平均利用回数 × 平均継続年数 × 利益率
年間平均利用回数が「1回」で終わってしまうとすると、上記のような販促費の使い方ではすぐに破綻してしまいます。つまり、年間平均利用回数を最大化できる仕組みがあるかどうか。これこそがどの程度のコストを販促費にかけても良いかの重要な点です。
そして繰り返し繰り返し利用してもらうために、衝動注文業態では毎月徹底してポスティングチラシを行い、オンライン注文を増やしてメルマガに誘導し、定期的な情報発信としてLINEを活用し、それでも離脱しそうであればハガキやDMも実施します。
これはEC(ネット通販)の世界でよく行われる常套手段です。フードデリバリーは小商圏特化型のECと言えます!如何に1人のお客様を大切にするか。これが成功と失敗の分かれ目になってきます。
LTVが高い企業になると販促費を多く投下できるため、販促の物量戦略で競合企業に対し優位性を持つことができます。逆にそうでなければ。。すごく怖いですよね。
だからこそフードデリバリーでは、
①LTVを最大化できる商品・接客・固定化の体制を作る
②適正CPOを決めて徹底して販促強化を行う
③徹底的に販促強化をすべく初年度の販促費は予算化しておく
という3点が大切です。
初動に失敗すればずるずると赤字を垂れ流す事業になってしまいますので、初動は思い切って販促フルスイングで顧客数の最大化に繋げていきたいところですね。