コロナ禍において様々なデリバリーサービスが注目されています。
コロナ前から専門店として展開していた業態は、コロナ禍以降も好調が続いています。例えば、銀のさらを展開する「ライドオンエクスプレス」では、3月の通期決算を上方修正しました。
デリバリー専業系の状況
売上高 :221億300万円 → 247億3900万円
株式会社ライドオンエクスプレスホールディングス、IR資料より
営業利益:16億400万円 → 22億円
純利益 :10億円 → 14億100万円
第一四半期決算で見ると、非常に高い伸び率を継続出来ているのがわかると思います。
売上高 :62億8000万円(前年同期比+31.3%)
(同上)
営業利益:6億8400万円(前年同期比+155.7%)
一方、デリバリーのプラットフォーマー側はどうでしょうか?「出前館」を見ると、第三四半期決算は下記のような結果でした。
売上高 :68億2200万円(前年同期比+40.8%)
株式会社出前館、IR資料より
営業利益:▲16億800万円(前年は2300万円の黒字)
配送網を自社で構築するのが如何に大変かということが数字に現れております。配送密度が高くなければそもそも利益を出すのは難しいですが、それを実現するには注文数を増やす必要がありますし、そのためには先行投資として配送人員の確保も必要になります。LINEの傘下となり、システム面・配送面それぞれでの投資が続くことで赤字が続くとは思いますが、それでも売上自体は着実に伸ばしています。
飲食店系の新たな取組
元々デリバリーを専業としてシェアを高めていた企業、またはフードデリバリーのプラットフォームとしてシェアを確保している企業では、売上自体は安定して伸ばすことに成功しています。このような背景の中、各飲食店の取り組みはどうでしょうか?
吉野家ではイートインのないデリバリー専門店を始めたり、モスバーガーもイートインのないテイクアウト専門店を立ち上げるなど、新たな専門店展開が加速しています。
吉野家の例であれば、商圏がイートインより広がる(一般的には一次商圏で半径2キロ)ため、物件の費用を大きく下げることができます。10坪〜20坪くらいの飲食店の居抜き物件をそのまま転用すれば、イニシャルコストもランニングコストも通常の飲食店営業よりも下げることができます。
モスバーガーの例であれば、テイクアウトを狙う必要があるため、どうしても立地の良さは必要になってきます。特にテイクアウトの売上を決める一番の要素は立地。基本的には生活導線内に設定する必要があるため、デリバリーのようにイニシャル・ランニング共にコストを抑えることが出来ません。しかし客席を設ける必要がないため、今まで出店できなかった立地にも攻め込むことが出来ます。
ロイヤルホールディングスの新たな取組
このように各社新しい取り組みを進めていますが、その中でも新しい取り組みとして特徴的だったのがロイヤルHDの取り組みです。まず足元の業績を見ると下記のようになっています。
売上高:405億100万円(前年同期比-40.8%)
ロイヤルホールディングス株式会社、IR資料より
営業利益:▲116億5900万円(前年同期16億9200万円の黒字)
純利益:▲131億6300万円(前年同期7億5400万円の黒字)
まさにコロナ禍により大打撃を受けている中、新たな取り組みとして「1キッチン5ブランド展開」を始めることを発表しました。8月31日にオープンした新業態では、「ロイヤルホスト」「天丼てんや」「ロイヤル」「黄金色の豚」「CHANPHA」の5つのブランドが1つの店舗で楽しめるようになっています。
アイテム数自体はまだテストの要素も強く、5ブランドながら28種類での展開。1つの専門店として見るならば、品揃え力として30アイテムは欲しいところではあるのですが、この展開の行い方は既存店の活性化として非常にやりやすい手法の一つです。
「実店舗併設型ゴーストレストラン」のタイプで、既存店での厨房稼働が減っているのであれば、オンライン上にてデリバリー専門店を複数立ち上げてしまい、1ブランドの売上自体はそこまで伸びなかったとしても、全てのブランドトータルで売上を伸ばせば良いという発想になります。
ただし、これには一つの問題があります。それは、ゴースト自体のブランドの認知度です。昨年や今年のコロナ前辺りはUber Eats上でのブランド数も少なく、市場規模が大きい業態を立ち上げれば初月からある程度(1ブランド30万円程)売上を作ることは簡単でした。
しかし、今はプラットフォーム上でのゴーストレストランも飽和状態。市場規模が大きい業態(唐揚げなど)は競合だらけですし、そうなるとユーザーは必ず比較検討します。それはプラットフォーム上での点数であったり、食べログの評点であったり。つまり、「ここのお店は信用できるのか?」という要素が益々強くなっています。
そのため、実店舗併設型ゴーストレストランの立ち上げ自体はコストもほぼ掛からず簡単ではありますが、初期の認知獲得のためのマーケティングコストは一定量予算として組んで立ち上げていく必要があります。また同時に、コロナ前まではブランドのスクラップ&ビルド(始めてみて上手く行かなければ閉店するを繰り返す)のスピード重視で進めて行けば良かったですが、上述のように今は初期マーケティングコストがかかります。
つまり、スクラップ&ビルドを繰り返していくと費用対効果も悪化していきます。この観点から考えると、「リピート率が高い業態」を作ることができるかどうか。食に関する事業としてはすごく当たり前の部分に戻ってきてしまいますが、結果としてリピート率の重要度は高まっています。
そもそも「ライフサイクル理論」で考えると、フードデリバリーは導入期を既に突破し成長期に入っています。そして立地によっては成熟期に入っています。そして一気に安定期に入っていくことが予想されます。
これを考えると、実店舗併設型ゴーストレストランと言えども、「高い商品力・接客力・価格力」を持ち、「顧客管理を大切にしてリピート率を高める」。ここの流れが大切になってきます。この辺りからも、配送委託から自社配送への切り替えによる接客力向上・コストダウンも活発化してくると思います。
現状においては成長期なのは間違い無いので、実店舗併設型ゴーストレストランで初期投資はあまりかけずに売上を伸ばしていけるフェーズですが、その後のフェーズにおける競争優位性をどのように構築するか?その視点を忘れずに進めていきたいですね。