フードデリバリーをを展開していく上で、大切にしたいのは生産性です。フードデリバリーを展開する上でビジネスモデルを作る際、下記の2パターンが主流だと思います。
①既存飲食店にデリバリー機能を付加する
②専用厨房を設け、ゴーストレストランとして展開する
どちらの場合においても生産性の向上は必須ですが、今回のコラムでは「生産性の基準値と改善方法」について解説していきます。
具体的には、以下4点について解説致します。
- フードデリバリーにおけるメインの時間帯
- 製造における理想的な製造人件費
- 月商150万円を実現するための生産体制
- ストック型導入によるさらなる生産性の改善
フードデリバリーが売れる時間
フードデリバリーを展開されている企業だと既に実感されていると思いますが、フードデリバリーが売れる時間は結構限られています。基本的には、ランチニーズ(11時半〜13時)とディナーニーズ(17時〜19時)の2つに集約されます。そしてこの限られた時間の中で、如何に製造数を最大化することができるかがフードデリバリーにおいて、売上を伸ばせるか伸ばせないかの大きな分岐点となります。
前回のコラムにも書かせて頂きましたが、お客様にとって「注文してから何分で届くのか?」という告知時間を長くすればするほど、そのお店の注文率は悪化していきます。
基本的に告知時間は長くとも30分以内に設定しておきたく、それ以上の時間になれば例えお客様が貴店を知って見てくれたとしても注文せずに離脱してしまいます。ディナータイムであれば、ある程度時間の融通を聞いてもらえることも多いのですが、特にランチタイムは日々忙しい中で時間が限られているためお客様も時間調整は難しいことが往々にしてあります。お客様もお昼休みの時間はたった60分と限られているので、お客様自身が召し上がられる時間を考慮すると、告知時間はどれだけ長くても30分が限界です。それゆえ、繰り返しになりますが限られた時間で如何に製造数を最大化できるか?これが大きなポイントとなります。
フードデリバリーにかけられる人件費
スタッフの時給が1,000円だったと仮定すると、最低限担保したい1時間あたりの売上は10,000円です。言い換えると、製造における人件費率は10%、人時売上は10,000円というラインをキープできる商品設計が理想的です。この製造にかかる人件費率10%をキープすることで、原価や消耗品、またUber EATSや出前館等のプラットフォーマーへの手数料などを差し引き、最終的な営業利益率約10%を確保できるようになります。
1時間に売上を一人で10,000円作るとすると、客単価1,000円の商品ならば10個です。60分の中で10個、つまり1つの商品あたり6分以内で完成できれば、しっかりと利益を出せる体制を作ることができます。これを考えると、オーダーが入ってから仕込み・調理・盛り込みという手順では当然間に合いません。仕込み自体は大半が完成しており、調理も再加熱程度に留める。つまり、最終調理と盛り込みだけで商品を作ることができるかどうかが肝です。
月商150万円を売る時の体制例
直近で飲食店からフードデリバリーに参入する際、目安となる売上目標は150万円〜200万円で設定することが多いです。その根拠としては、1店舗辺り売上が500万円の企業が多い中、コロナの影響において7割経済が持続すると考えると、店内売上は350万円(=500万円×70%)となってしまいます。そのため、落ち込んだ150万円分(=500万円 – 350万円)の売上を店外売上で補填するべく、その150万円を取り急ぎのフードデリバリーの売上目標として進めようという流れで決まることが多いです。
月商150万円を売るということは、1日辺りの必要売上は5万円です。フードデリバリーの時間帯(昼or夜)による売上構成比は立地にもよりますが「昼:夜=6:4」くらいのバランスが多いです。つまり、日販5万円とすると、昼:3万円・夜:2万円を突破することが目標になります。この目標に対する理想的な人員体制は・・・
昼:3万円=2名(人員体制)×1.5時間(ランチ時間帯)×10,000円(1時間 x 1名あたり必要売上)
夜:2万円=1名(人員体制)×2.0時間(ディナー時間帯)×10,000円(1時間x 1名あたり必要売上)
つまり、昼は2名体制・夜は1名体制です。正直なところ、デリバリー事業観点で人的リソースが必要な時間としては昼1.5時間・夜2時間だけです。飲食店でフードデリバリーを付加ビジネスとして行う場合、もちろん仕込み・調理に関しては既存社員メンバーで回すことが大半になると思います。そのため、上述のピークタイムの人員を考えるとアルバイトスタッフの労働時間は前後の各種諸業務があったとしても長くありません。この辺りは、タイミーなど時間あたりのスポット人員の活用なのか、短時間スポットアルバイトを募集するかなど、生産性を下げない中でのスタッフの確保が大切になってきます。
ストック型を実現する調理方法の導入
このように限られた時間内での製造数最大化を目指す上で、毎日仕込み・調理を行っているとどうしても欠品が出てしまったり、その都度作ろうとすると製造効率が悪化し、結果的に販売件数を伸ばせなくなります。(もしくは仕込み・調理部分での長時間労働が発生することもあります。)これを未然に防ぐためには、ほぼ完成品に近い仕掛品をストックすることで効率化を図ることも重要です。
飲食店事業の付加で始める時には冷蔵庫・冷凍庫共にギリギリなので厳しいかもしれませんが、専用厨房を設けて展開する時には、完成品に近い仕掛品のストックは是非進めたい施策です。具体的な調理方法としては、クックチルとクックフリーズです。
クックチルは、製造したものを真空パックに入れ、中心温度が75度以上かつ1分以上加熱できるようスチームコンベクションオーブンを活用。そして90分以内に氷水やブラストチラーを活用し、一気に冷やす手法です。一度滅菌したものを急速に冷やしているため、3度以内の冷蔵庫に保管していれば理論上かなり菌が発生しづらくなります。これを活用し、在庫回転を1週間〜2週間に設定して、1〜2週間分のストックを持つ企業が多いです。
クックフリーズは、急速凍結機です。以前は費用も高額でしたが、最近では200万円くらいで導入できるようになりました。急速凍結させることによって食材の細胞が破壊されづらく、解凍してもドリップが出づらい。つまり、品質をキープしやすい。そのため、冷凍保存が可能な商品は、クックフリーズで冷凍保管しておき、オーダー毎に活用していくイメージです。
上記のように仕掛品のストックが可能になれば、仕込み・調理も毎日する必要なく、決まった曜日に仕込み作業のルーティーン化ができるようになります。そして作業のルーティーン化ができれば、繁忙期・閑散期にあまり左右されずに労働の標準化が可能になるため、生産性の改善だけでなく、スタッフの労務環境も改善できます。この辺りは専門厨房で展開する時にはポイントにしていきたいところです。
まとめ
フードデリバリーにおいて、一般的なFLコストの発想で事業を構築するのは危険です。原価=食材+包材+製造人件費で考えた時に、本当に効率がよくお客様に支持される商品か?この視点を持って展開していくことがデリバリー事業における成功に繋がります。